めっちゃくちゃ評価の高いファンタジー作品を探していて、たどり着いたのがこの本。
血と霧、っていうタイトルと、いかにもラノベっぽい表紙で、一瞬敬遠しそうになったんですけどとにかくレビューで「読んでよかった」とか「忘れられない作品になった」とか、べた褒めされてるんで、興味を惹かれて購入。
ぶっちゃけ設定めっちゃ凝ってます。
地球とは全く違う世界に生きる人々の物語です。
この世界では持って生まれた血の価値ですべてが決まってしまうんです。
生まれや身分だけじゃなく身体能力さえも血によって決まる。
血の価値が高い人はいろんな能力も使えます。
相手を思うがままに操ることも可能です。
血の価値が高ければ高いほど上級市民というわけで、王族は最も高貴な血をもっていて尊ばれているけどその血の貴重さから狙われたりするし争いの火種にもなりやすい、というわかりやすい理不尽な世界観。
ざっくりあらすじを説明すると、主人公は妻子を失くして人探しを生業にしており、地下の最下層で生きている中年男性。
ある時ひょんなことからその国の王子と出会って絆を深めていくっていう流れなんですけど…
まあはっきり言ってしまうと、途中までは「やっぱりラノベだわ」って思って、この歳で読む小説じゃなかったな~って思って読んでたんです。
面白いけど、まあ良くも悪くも漫画っぽいというか。
でもこれ…これがこの人の作風なのか…めっちゃキャラがみんな哀愁漂ってて、とにかくハートフルなんすよね…。
主人公、出会って間もない少年に自分の娘の面影を重ねていて(確か実際に血縁があるんですが)最後のほうなんて、もうその子に対する愛情で満ち溢れてるんですよね…。
その子の余命が分かった時「自分が変わってやりたい」っていう思いが切実すぎて。
こんな腐った世界じゃなく、広い世界を見せたい、最後まで一緒にいてあげたい、っていう思いが強く伝わってきて…不思議なくらいあったかい気持ちになるんですよ。
普通こういう設定だともっと殺伐とした展開になりがち。
ドンパチ始めたり人が死にまくったりしがち。
もちろん作中で戦いのシーンはありますがそれはメインではなく、あくまでキャラの心理描写が主軸だった感じですね。
人と人との一瞬の邂逅、絆、愛情、いろんなものが詰め込まれてた…。
いい意味で凝ったラノベっぽい世界観と、ハートフルな登場人物たちの心の動きにギャップがありすぎて、自分の中で予想が外れて混乱した。
途中まで思ってたのと結末が全然違う。
少年が自分なりに納得して死んじゃったのも、賛否あるだろうけど私はありだと思いました。
きっとこれから世界はよくなっていくんだろうな~って思わせてくれる終わり方だったし、主人公やほかの登場人物たちに意思が引き継がれてると感じたし…。
主人公が生きる限り、亡くなった人たちも消えないっていうか…きっとあっちの世界でみんな再会できてるような気がするっていうか。
意外とそこまで誰も不幸になってないっていうか、主人公が生きる限り亡くなった人たちも救われるんだろうなって思わせてくれる。
読後感がいい作品でした。
いや~、失礼な言い方だけど意外だったわ。
もっとハードボイルド系にしか見えなかったもん。
そういう作品ならいっぱい知ってるし。
この殺伐とした世界観にこんなハートフルな展開と温かいキャラクターをくっつける作家さんがいらっしゃるんですね…。
読んでよかったです。